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十分な数のお得意様が確保できると、わざわざ新規顧客を集めるために手間とコストをかけるより、既存顧客へのサービス向上のために経営資源を投入した方が良いように見えるときがあります。

しかし、ビジネスを安定的に成長させ続けるために、そして何よりもお得様自身のためにも、新規顧客を獲得し続ける必要があるのです。

今回は改めて、なぜ新規顧客を獲得し続けなければならないのかを考えます。

最初にことわっておきますが、既存顧客は大切にするべきです。初めて自社の商品やサービスを購入してくれたお客さんがリピーターになってくれるように、アフターケアやキャンペーンを行って顧客満足度の向上に全力をあげるのは当然です。現代のビジネス環境において、「ファン」の協力なしに事業の成長はありえません。

新規顧客の獲得には時間もコストもかかります。「だったら、今のお客さんのために全ての経営資源を集中した方がいいじゃないか」という考え方もありますが、私はそうは思いません。

むしろ、自社のブランドを愛してくれている既存顧客のためにこそ、新規顧客の獲得にこだわり続けるべきなのです。

新規顧客の開拓を続けるのは、特定の顧客へ依存しなければならない状況になってしまう可能性を極限まで下げるためです。

詳しく理由を見ていきましょう。

特定の顧客への依存は利益率を下げる

特定の顧客に売上の大部分を依存すると、あなたビジネスの利益率を下げる圧力が発生します。

個人と個人の関係や、企業と企業、企業と個人など、様々な「関係のありかた」すなわちネットワークの特徴について研究する「ネットワーク論」という学問があります。そのネットワーク論の研究成果として、

  • 売り手の数が多く、買い手の数が少ない場合
  • 売り手同士はライバル関係にあり、買い手同士が協力関係にある場合

という2つの場合には、買い手が売り手に対して有利な立場にあり、影響力を行使できるため、売り手の利益率を下げる構造的な圧力が生じることが報告されています。

まず、売り手の数が多く買い手の数が少ない場合を考えます。ここでは、同じ商品を売っている売り手が2社、買い手が1人という極端な状況を仮定します。買い手は2社のどちらからでも商品を購入できる一方で、売り手はその1人を顧客にできなければ生き残ることができません。このような状況では売り手は生存できるギリギリまで値段を下げるほか無くなります。このような状況を「買い手がバーゲニング・パワーを持つ状況」といいます。

また、売り手同士はライバル関係にある一方で買い手同士は協力関係にある場合も、買い手側がバーゲニング・パワーを持ちます。仮に売り手より買い手の数が圧倒的に多かったとしても、その買い手たちが一枚岩に結束していて全員が同じ売り手を選ぶ場合、売り手は結束した買い手集団に選んでもらわなければ生き残れませんから、限界まで安売りすることになるのです。

このように、特定の顧客に依存する状況はビジネスの利益を悪化させる原因なのです。高い利益率を維持するためには、常に新規顧客を開拓し、数も多くニーズも多様な層の厚い顧客を確保する必要があります。

利益は商品開発やサービス向上のための投資の元手です。利益が出なくなれば、新商品も開発できず、サービスも向上しないため、既存顧客の期待に応えることができなくなっていくのです。

特定の顧客への依存は変化に弱い組織体質をつくる

ビジネスを継続するのに十分な数のお得意さんが集まったからといって新規顧客の獲得をおろそかにすると、事業の体質が変化に弱い、硬直したものに変質していきます。

いつも同じ相手と取引を繰り返すと、その事業の「ムダな部分」が削ぎ落とされていきます。お得意さんのニーズにあわせて商品が最適化され、コスト削減も進むため、利益率は一時的に上昇します。

しかし、そこで増えた利益を新規顧客獲得のための広告宣伝や市場分析などのマーケティング活動に投資して、視野を広く持ち続けることが大切です。

商品が特定の顧客のニーズに専門化されればされるほど他のお客さんに販売できる可能性が下がりますし、マーケティング活動を行わなければ客観的な市場のニーズが分からなくなっていきます。つまり、新規顧客を獲得する力が失われてしまうのです。

そのように硬直化し、新規顧客を開拓できなくなった状況で、何かのきっかけで例え一時的にでもお得意さんが離れてしまった場合、もはやその変化に対応することはできません。

お得意さんに永く商品を提供し続けるためにも、新規顧客を獲得するための取り組みを通じて、変化に対応できる柔軟な組織体質を維持する必要があるのです。

まとめ

特定の顧客の依存することは、そのネットワーク構造により買い手がバーゲニング・パワーを持つことになり、投資の元手になる貴重な利益を圧迫する原因となります。さらに、特定の顧客への過度な最適化が進むと新規顧客を獲得するためのマーケティング能力が失われ、変化に弱い硬直した体質になってしまいます。ビジネスを応援してくれる既存顧客のためにこそ、新規顧客を獲得し続けなければなりません。

しかし、新規顧客の開拓には時間がかかります。見込み客の目を引く段階から、信頼を獲得して実際の購入まで結びつける、いわゆるリード・ナーチャリングには時間もコストもかかるのです。

したがって、散発的に新規顧客獲得キャンペーンを行うのではなく、新規顧客を獲得し続けることができる「仕組みづくり」が非常に重要になります。既存顧客が知り合いに紹介したくなるような仕掛けづくりや、ホームページのコンテンツを作り込んでおくことなど、ぜひ継続的に効果を発揮する施策を用意しましょう。

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