日本の13歳から59歳までのすべての年齢層でインターネット利用者が90%を超えている現在において、どんなビジネスを営むにしても何らかの手段でWebマーケティングを実施する必要があることは、もはや経営の常識とさえ言えるでしょう。
Webマーケティングの主要な手段として挙げられることの多いホームページとSNSについて、それぞれの違いを確認しつつ、両方を運用することが絶対に必要である理由を説明します。
Webマーケティングの手段として昔から活用されてきたのが企業ホームページです。しかしながら、ビジネス用のホームページとなると基本的にはウェブ制作会社に外注することになるため、ホームページの作成と運用にはコストがかかります。
対して、FacebookやTwitterなどのSNSで企業アカウントを作成し、そこで情報発信するのであれば、基本的にはコストがかかりません。技術的な知識も不要のため、資金力や人員などの経営資源が不足しがちな新規創業や個人事業では、ホームページを作らずにSNSアカウントだけでWebマーケティングを実施している例も見受けられます。
しかし、現代における主要な集客手段であるWebマーケティングをSNSだけに依存することは、中長期的にはビジネスの成長を阻害するリスクがあります。
どのようなリスクがあるのか見ていきましょう。
1-1.SNSは利用規約が頻繁に変わる
SNSは利用規約が頻繁に変わります。個人のユーザーとしてSNSを楽しんでいるだけであれば、あまり意識することは無いかもしれません。
しかし、利用規約の変更によっていつの間にかこれまで実施してきたキャンペーンが禁止になることや、ブランディング戦略の見直しが必要になることが過去に発生しています。
例えばFacebookでは、「いいね!」をすることを条件にプレゼントの抽選に応募できる形式のキャンペーンは、低予算で簡単に実施できるマーケティング施策として人気がありました。要するに「いいね!を押してキャンペーンに応募しよう!」形式の施策です。
しかし、2014年11月5日にFaecbookによる利用規約の変更で、「いいね!」が参加条件のキャンペーンは禁止になりました。
Facebookでのマーケティング施策を集客の中心にしていたスモールビジネスにとって、これは非常な痛手です。
しかし、Facebookはユーザーが本当に気に入ったものにだけ「いいね!」ができる環境が、ユーザーにとってFacebookの価値を高めることになるとして、利用規約の変更を行ったのでした。
にも関わらず、2019年1月現在、「いいね!」を条件にしたキャンペーンは解禁されているのです。厳密には、「解禁」というはっきりした態度をとっている訳ではなく、「禁止事項ではない」といったニュアンスになっています。
ユーザーにとっての価値を高めるとは何だったのでしょうか?何のために、Facebookでマーケティングを行っていた人々は、主力のキャンペーンを制約されていたのでしょうか?
SNSは慈善事業でもなければ公共インフラでも何でもなく、営利企業が営利目的で提供するWebサービスであるに過ぎません。また、多くのSNSのビジネスモデルは広告を主要な収入源にするものです。
こうした事情から、その時々の運営会社の経営方針や広告主の意向などによってSNSの利用規約は変更されてきましたし、これからも変更されます。
SNSにWebマーケティングを依存するということは、自社のマーケティング戦略が特定企業の利害関係に完全に制約を受けてしまう状況を進んで作り出すということなのです。
1-2.アカウント凍結のリスクがある
SNSのアカウントを凍結されてしまえば、その瞬間からWebマーケティング施策は何も行えなくなってしまいます。
利用規約をきちんと守っていればアカウントの凍結など有り得ないというのが建前ですが、実際は少し様子が異なります。
SNSはその性質上、膨大な数のユーザーが集まります。2018年10月時点での統計で、Facebookのアクティブユーザーは22億34百万人、Twitterでは3億35百万人にも達しています。
これほどの数を人力で監視することは不可能なので、アカウント凍結の判断は自動検出やユーザー相互の通報など、確実性を欠く方法に頼らざるを得ません。
当然、誤検出も大量に発生しており、インターネット上には「身に覚えのないアカウント凍結」に関しての情報があふれています。
アルゴリズムの誤検出や悪意あるユーザーの通報で自社のWebマーケティングがいちいち中断していては、手間がかかるばかりです。
まして誤検出からのアカウント永久凍結という悲惨な事例も報告されており、そうなってしまえばせっかく積み重ねてきたSNS上での努力がリセットされていまいます。
1-3.自由なマーケティングができない
これまでに説明してきた「SNSは利用規約が頻繁に変わる」「アカウント凍結のリスクがある」という特徴から、SNS上では自由にマーケティング施策を実施することができません。
ビジネスにおいて、いかに競合他社と差別化するかは大きな課題です。その課題を乗り越えるための取り組みがマーケティング施策の実施なのですから、本来マーケティング施策は個々のビジネスごとに独自のものであって然るべきです。
競合他社に先駆けてオリジナルなマーケティング施策を実施することに価値があるという事実を重く考えましょう。
利用規約の変更やアカウント凍結のリスクを計算に入れて行う保守的なマーケティング施策で、競合他社との差別化が実現すると思いますか?
SNSでチャレンジングなマーケティング施策を打ち出せるのは、SNSとは別に良質な自社ホームページが構築できている余裕があればこそなのです。
2.情報収集の中核は企業ホームページ
SNSが日常的なものになった現在でも、情報収集の中心にあるのは企業の公式ホームページです。
これはBtoBビジネスでもBtoCビジネスでも変わりません。それぞれの場合について詳しく見ていきましょう。
2-1.BtoBの場合
ITコミュニケーションズによる2019年1月17日付けプレスリリースによると、BtoB商材の購買行動に関するアンケート調査で「製品やサービスを検討した際、収集した主な情報源は?」との質問に対し下記のような回答が得られました。
上のグラフから分かるとおり、「提供企業のWebサイト」が27.4%で情報源の第3位につけているのに比べて、「SNS(Facebook。Twitterなど)」は12.4%と、Webサイトの半分以下に過ぎない数値が出ています。
なお、1位の「各種Webメディア」はニュースサイトや比較サイト等であり、2位の「テレビ」と合わせて、どちらも売り手側の企業が自社でコントロールできるメディアではありません。したがって、自社で運用可能なメディアの中で最も顧客に活用されているのが自社の公式ホームページであるということになります。
また、「ウェブ上でのマーケティングより、セールスマンがリアルで行うマーケティングの方が重要だ」という意見も未だに根強いですが、「営業担当者」が14.2%で8位に過ぎず、わずかにSNSを上回る程度であるという調査結果を踏まえると、再考の余地ありと言えます。
2-2.BtoCの場合
マーケティングリサーチキャンプが、17歳~69歳の男女1,100名を対象に行った「モバイル&ソーシャルメディア月次定点調査(2018年10月度)」によれば、スマートフォンによる情報収集方法は「インターネット」が83.3%で最も多く、次いで「新聞社やテレビ局以外のニュースアプリ」が50.3%であり、「SNSの投稿やニュースコンテンツ」は40.9%でした。
BtoCビジネスにおいてもBtoBビジネスと同様に、人々が情報収集の際にメインで使っているのはSNSではなく、インターネット検索であり、Webサイトであるということが分かります。
インターネット検索で顧客に見つけてもらうためには、自社ホームページ上のコンテンツを地道に作り込み、育て上げ、検索結果の上位に表示されることが重要です。
Webマーケティングを行うためには、良質な公式ホームページが必要不可欠なのです。
3.ホームページとSNSではコンテンツとしての性質が違う
ここまで、ホームページを作らずにSNSだけに依存する危険性を説明し、さらに顧客の情報収集の中核はSNSではなく企業の公式ホームページであることを確認してきました。
ホームページがWebマーケティングに絶対に必要であることは分かっていただけたと思いますが、一方でSNSもまた重要なマーケティングツールであることは事実です。
そもそも、ホームページとSNSとでは本質的にコンテンツとしての性質が異なっており、両方をカバーすることが重要なのです。
ホームページとSNSはどのように性質が異なるのか、詳しく見ていきます。
3-1.ホームページはストック型コンテンツ
ホームページは主にストック型コンテンツが蓄積されていきます。
ストック型コンテンツとは、時間が経過しても価値が下がりにくく、ストック(資産)として長期的な効果を期待することができるコンテンツのことです。
代表的なストック型コンテンツには、製品やサービスについての詳細情報や会社情報、よくある質問、お客様の声、ビジネスブログ、事例紹介などがあります。
これらのコンテンツは時間が経過しても価値が劣化しにくく、普遍的な価値を有しているのが特徴です。
次から次へと情報が生み出されていは消えていくSNSという媒体では、ストック型コンテンツの長期的な効果を活かすことができません。
長期間安定的に情報を発信し続けることが可能な自社ホームページに蓄積してこそ、その真価を発揮するのです。コンテンツの価値が蓄積されていき、やがては手を掛けなくてもマーケティング効果を発揮し続ける資産へと成長していきます。
他方、ストック型コンテンツは長期間利用することが前提である以上、ある程度の質の高さが求められます。質の高いコンテンツを用意するためには、それに見合うだけの経営資源を投下しなければいけません。
新規創業や個人事業の場合には、手間と時間を掛けてコンテンツの質を高める戦略を採用せざるを得ず、コンテンツの充実とマーケティング効果の発揮までに時間が掛かってしまうという弱点があります。
3-2.SNSはフロー型コンテンツ
SNSは、フロー型コンテンツを投入するのにふさわしいメディアです。
フロー型コンテンツとは、時間が経過すると価値が劣化しやすく、その時々のフロー(流れ)の中で短期的に役割を終えていくコンテンツです。
フロー型コンテンツの代表例は、つぶやきやセール情報、キャンペーンの告知などです。
これらのコンテンツは、短期的には価値を有しているものの、ある一定期間を過ぎると急激にその価値を失い、参照される頻度が激減するのが特徴です。
したがって、短期間で情報を拡散させることが可能でありながら、情報が次々に押し寄せるため長期間露出させ続けることが困難という特徴を持つSNSと非常に相性がいいのです。
また、フロー型コンテンツはその場限りでの利用であることが明白なため、コンテンツ自体の質の高さよりも、上手くタイミングを捉えてメディアに投下することの方が重要です。
このため、コンテンツの準備に時間や手間をあまりかけることなく、マーケティング効果を短期間で得ることが可能です。
一方で、短期間でその価値が失われてしまうため、価値を蓄積していくことができません。フロー型コンテンツによるマーケティング効果を維持するためには、いつまでもコンテンツ作成のために資源を投下し続けなければいけません。
4.ストック型コンテンツの育成には時間がかかる
ホームページにはストック型コンテンツが向いており、SNSにはフロー型コンテンツが向いています。
それぞれ性質が異なるため、両者の長所を活かした運用を行い、「ホームページだけ」「SNSだけ」という視野狭窄に陥らないことが重要です。
それぞれの性質について、もう少し踏み込んで確認し、整理しておきましょう。
まずは、「時間」という観点から見ていきます。
4-1.ホームページはゼロからのスタート
ホームページは、ただ作っただけでは集客効果はありません。
ホームページを訪れてくれた人にとって価値のあるコンテンツを地道に用意し、技術的なSEO対策も万全にして、ようやくその効果を発揮し始めます。
ホームページは「育てて」こそ真価を発揮するものであり、ゼロからのスタートなのです。
したがって、本格的に集客の流れを生み出すまでには相応の時間を要します。
また、ホームページに向いているコンテンツは、ストック型コンテンツです。ストック型コンテンツは長期間発信され続けるため、ある程度の品質を確保する必要がありますが、質の高いコンテンツの作成には時間がかかります。
このように、ただでさえゼロのスタートであるホームページの育成に、「作成に時間が掛かる」というストック型コンテンツの性質も相まって、長期的な投資にならざるを得ないのです。
4-2.SNSは即効性がウリ
SNSには既に多くの人が集まっています。検索エンジン経由ではなくアプリから流入してくるため、SEO対策を考えずとも、自分もそのSNSにアカウントさえ作ればすぐに情報発信できる即効性が魅力です。
また、情報発信のために必要なコンテンツ作成の基盤も運営会社があらかじめ整備しており、フロー型コンテンツの中でも特に多用することになる画像や短い動画を簡単に加工・修正して公開することが可能です。
コンテンツ作成のハードルが低いこと。そして、アカウント作成の初日から数百人のユーザーに情報を発信することも可能な拡散力が、SNSの即効性を確かなものにしています。
ただ、より大きなマーケティング効果を得るためには、SNSといえど継続的な取り組みが必要であることは覚悟しておきましょう。
5.ストック型コンテンツを育成すると「仕組み化」できる
ホームページとSNSの違いは、それらを活用して一定のマーケティング効果を得るまでに要する時間だけではありません。
それぞれを運用することによってたどり着くマーケティング的な「ゴール」もまた違います。
5-1.SNSでできるアプローチは浅く、短い
手軽で即効性のあるSNSによるマーケティングですが、1つのコンテンツあたりの寿命が短いことに加え、効果的にアプローチできる顧客の「段階」が浅いのが弱点です。
通常、ある商品やサービスの購入に至るまでには様々な段階を経るものです。まだあなたのビジネスについて認知したばかりの人もいれば、類似品と比較検討している人や、いよいよ購入に踏み切るための「最後の言い訳」を探している人もいるでしょう。
ですが、一つひとつのコンテンツのボリュームが小さく、次々に流れては消えてしまうSNSというメディアでは、「認知拡大」や「ブランディング」など、購入までの距離が遠い段階、すなわち、浅いレベルのアプローチを超えることが難しいのです。
5-2.ホームページならマーケティングの深いレベルまで自動化できる
ホームページでであればボリュームのあるコンテンツも掲載できるため、最近自社の商品に興味を持ち始め、もっと深く知りたいと思っている人や、詳細な製品仕様を確認していたいと思っている見込み客の要望にも応えることができます。
もちろん、ボリュームが控えめなコンテンツもホームページに掲載することができるため、様々な検討段階の見込み客に「深く」アプローチできるのがホームページの長所です。
また、それぞれのコンテンツは長期間公開され、マーケティング効果を発揮し続けますから、コンテンツが充実し、ホームページが育てば育つほどマーケティングや新規開拓を自動化できるというのも大きな魅力です。
最初こそ、その効果を実感するまでに時間が掛かってしまいますが、後から手がかからなくなってくるため、長い目で取り組むことが重要です。
まとめ
ホームページとSNSは、それぞれがメディアとして異なる性質を持っており、お互いに補い合うことで、より効果的なネット集客・Webマーケティングを行うことができます。
予算や人的資源の都合から「ホームページだけ」「SNSだけ」と、視野を狭めてしまうのではなく、「限られた経営資源の中でいかに両メディアを運用するか」が知恵の使い所であるといえます。