起業する際に、どのような業種にチャレンジするのかは悩みどころです。今回は、業種ごとの特徴の全体像を把握するために、3つのデータを見ていきます。
業種別の開廃業率
小規模企業白書2017年版より、まずは業種別の開廃業率を見てみましょう。
上の図を見ると「宿泊業、飲食サービス業」は開業率・廃業率の両方が高く、他の業種から飛び抜けているのが目立ちます。毎年多くのお店が開く一方で、多くのお店が廃業していくということですから、業種としてプレイヤーの交代が激しいということです。
一方で、「小売業」は開業率に対して廃業率が高めのエリアに位置しています。Amazonなどの巨大EC資本によって事業者数が減少に追い込まれている実態が見て取れます。
また、各業種の円の大きさは事業所数を表していますが、「建設業」や「製造業」の円が特に大きく、次いで「小売業」「医療、福祉」「その他サービス業」が大きいことが分かります。メディアで華々しく取り上げられる起業家の姿から、「起業といえばIT系」というイメージがあるかもしれませんが、「情報通信業」の円が小さいことから分かるように、IT系での起業は日本における典型的な起業の姿ではありません。
業種別の営業利益
つぎに、業種別の営業利益を確認します。営業利益は「本業から得られるもうけ」ですから、営業利益が安定して高ければ経営も安定します。
なお、グラフは個人事業主として開業している事業者の統計になっています。
まず目立つのが、2009年に製造業の営業利益が大きく落ち込んでいることです。リーマンショックによる世界的な不況の影響ですが、それにしても製造業だけ影響が顕著です。
一般に、製造業は「資本集約的な産業」、つまり、大掛かりな機械や設備に投資し、それらを活用することで利益を生み出す業種です。ですから、事業運営にかかるコストの内、機械設備の減価償却費などの固定費の占める割合が大きくなりがちです(減価償却費が難しい方は、機械を買う時に組んだローンのことだと思ってください)。固定費の比率が高いと、不況などで売上が落ち込んだ時でもコストを削減することができないため、利益が大きく落ち込むことになります。製造業という業種が持つ構造、あるいは体質が、グラフに分かりやすく現れているわけです。
そのほか、多少の波はあるものの、どの業種も営業利益が伸び悩んでいることにも注目です。上のグラフの集計期間では、一時のブームに乗って起業しても揺り戻しに合う可能性が高かったであろうことがうかがえます。
成長度合い別の業種構成
最後に、成長度合い別の業種構成を見てみましょう。まず前提として、起業後の成長タイプを「高成長型」「安定成長型」「持続成長型」の3つに分けます。
せっかく起業するのですから、一気に事業拡大する「高成長型」か手堅く積み上げていく「安定成長型」を目指したいものです。では、成長タイプごとに占める各業種の比率に違いがあるのでしょうか。
上のグラフをよく見ると、高成長型の企業は「情報通信業」、「製造業」、「建設業」といった割合がほかの成長タイプに比べて高くなっていることが分かります。一方で、持続成長型の企業は「小売業」、「医療,福祉」、「サービス業」等の、比較的地域や生活に密着した業種の割合が高くなっています。業種によって、事業拡大の難しさが異なるであろうことがうかがえます。
まとめ
以上、起業する業種によってどのような差があるのか、開廃業率・営業利益・成長度合いの3つの観点からデータを確認していきました。
これまで見た内容から明らかなとおり、チャレンジする業種ごとの特徴によって様々な差が生じます。実際の企業の際には各種データを確認し、十分に見通しを立てる必要がありそうですね。